氏名: 北坂 孝幸 (489934021)

論文題目: 人体の解剖学的知識を利用した3次元胸部X線CT像における臓器認識に関する研究


論文概要

本論文では,人体の解剖学的知識を利用した3次元胸部X線CT像における臓器認識 手法について述べる. 以下,研究の背景,大動脈および肺動脈領域抽出法について述べる.

背景

今日の医療の分野において,3次元X線CT装置は広く普及し,3次元X線CT像を用い た診断が日常的に行わ れている.3次元X線CT像は,患者一人あたり数十枚から数百枚の断面像(スライ ス)からなり,診断作業は熟 練した医師でも労力を要する.そこで,人間が不得手な作業(例えば,人体の3 次元再構成とその表示,体積 や表面積などの種々の特徴量の定量的計測,など)のいくつかを,あるいは全て を,計算機で置き換えること によって診断業務を軽減することが望まれている.

本研究で対象とする3次元胸部X線CT像における主なテーマは,臓器領域自動抽 出,肺がんなどの異常部位 の自動検出,腫瘤の良悪性鑑別,診断に有効な特徴量とその可視化手法の開発な どである.これらの中で, 私は主に臓器領域自動抽出に関する研究を行ってきた. 肺と気管支,肺野内肺動静脈は計算機による肺がん検出や腫瘤の良悪性鑑別にお いて欠くことのできない重 要な臓器であり,既に多くの研究が行われている. 大動脈と縦隔内肺動静脈は肺がんや血管腫瘤の検出において必要であるが,造影 CT像(造影剤を注入して 撮影したCT像)に対する研究は行われているものの,非造影CT像に対する研究は これまでになされていな い. スクリーニングや初期の診断においては,通常,造影剤を用いずに撮影するた め,非造影CT像から大動脈お よび縦隔内肺動静脈を抽出する手法の開発が望まれる.

大動脈および肺動脈領域自動抽出法

非造影3次元胸部X線CT像における縦隔内のCT値は,大動脈などの血管がいずれも 約20〜70H.U.,その他 の領域が約-100から40H.U.であり,各血管が密接して存在しているため濃度値コ ントラストは低い. そのため,濃淡特徴のみを用いて各血管領域を抽出することはほとんど不可能で ある. 本手法では,濃淡特徴だけではなく,血管がチューブ状臓器であるという形状特 徴を利用し,血管の芯線の形 状モデル,濃淡画像のエッジオペレータ出力および距離変換と逆距離変換を組み 合わせることで,大動脈およ び肺動脈領域を自動抽出する. なお,平滑化としてメディアンフィルタとオープニング演算を施した. また,エッジ検出処理は,まず平滑化後の画像にグラディエントフィルタを適用 してエッジ候補画素を抽出する.得られた候補画素の各点を中心とする球形の近 傍領域内で濃度値の標準偏差があるしきい値よりも大きい画素をエッジ画素とし て抽出する.これは,基本的に同一血管内のCT値のばらつきが小さいことを考慮 したものであり,血管内に抽出された偽エッジを削除するための処理である.

抽出結果

上記手法を実際の非造影3次元胸部X線CT像7例に適用した.抽出結果と手入力に より抽出した大動脈,肺動脈領域(理想領域とする)を比較した結果,大動脈領 域に関しては6例で90%以上(残りの1例は88%)一致し,良好な結果を得た.し かし,部分的には理想の輪郭より5〜12画素程度ずれている個所があった. 一方肺動脈領域は,80〜90%であった.

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提出時刻:2002/02/08 15:08:41