本論文では,3次元胸部X線CT像からの解剖学的知識を利用した肺動・静脈
の自動認識のための一手法を提案する.近年のX線CTの発達に伴う画像枚数
の増加により読影医師の負担が増加しているため,それを軽減する診断支援シ
ステムの開発が望まれている.胸部における肺腫瘤の良悪性鑑別を考えた場合,
腫瘤周辺の血管集束の度合,集束する血管の種類,血管の走行方向などが鑑別
の重要な情報であり,各血管の空間的位置情報や解剖学的構造を自動認識する
ことは必須となる.
本研究では,最初に予備実験として領域拡張法を用いた肺動・静脈の自動分
類について検討した.この手法では肺門部付近の血管に抽出開始点を設定し,
そこから領域拡張を行い各血管を抽出した.その結果,この手法では肺動・静
脈間の接触部,ならびに肺血管・気管支壁間の接触部から誤拡張を生じ,それ
を防ぐために手入力処理が必要であることが分かった.そこで,その作業を軽
減するために,気管支壁への手入力の削減手法,気管支と各血管の相対的位置
関係が安定した部位が撮影されたスライス(キー・スライス)内での血管認識手
法について検討した.
1. 【気管支壁への手入力削減手法】
気管支壁の厚さが隣接する血管の太さよりも細いことに注目し,気管支壁に
よる誤拡張を軽減する.具体的には,領域拡張時に構造要素を球として球単位
で拡張を行う.血管径は肺門部から末梢部にかけて小さくなっていくため,構
造要素の半径を順次小さくしながら拡張を行う.本手法を実際の胸部X線CT
像に適用した結果,気管支壁からの誤拡張を概ね防ぐ事ができた.
2. 【キー・スライス内の血管認識手法】
キー・スライス内では気管支と各血管との位置関係は基本的に変わらないた
め,キー・スライス内の血管を認識することで3次元の血管認識につながると
考える.まず,気管支の各枝に命名を行い,その情報からキー・スライスの位
置を推定する.推定したキー・スライス内で気管支枝と各血管との位置関係を
基に,円を構造要素とした領域拡張法を用いて各血管の認識を行う.本手法を
実際の胸部X線CT像に適用した結果,キー・スライス内での肺動・静脈自動
認識の可能性が示唆された.