氏名: 上山英三 (d06723)

論文題目: 自律分散システムに基いた初期視覚の定式化


論文概要

 従来の集中管理型システムの弊害を克服できると期待されている自律分散システムとは, 分割されたサブシステム(個)が局所的な相互作用を及ぼしあいながら自律的に挙動し, その結果システム全体の機能・目的を達成できるよう大域的秩序を自己組織化するシステ ムである.この自己組織化に必要な局所的相互作用を如何に構成するかという設計上の問 題を画像認識を通して考える.認識系は構成系と表裏一体であり,認識系を考えることに より系の構成原理の考察が可能と考えられる.その際,画素を「個」,一つのまとまった 認識結果を「大域的秩序」と考えて画像認識と自律分散システムの対応をとる.また画像 一般の持つ性質として,近接画素間の相関が遠隔画素間の相関よりも高いことが挙げられ, 局所的相互作用による認識系の実現は画像の性質を効率的に利用していると言える.  画像認識の問題のうち,初期視覚のような比較的低次の認識問題は,従来より標準正則 化理論で定式化され,変分原理を通して反応拡散方程式を用いて実現可能である.この方 程式中の拡散項という局所的な演算により,標準正則化での評価関数の最小化という大域 的演算を実現することは自律分散の趣旨そのものである.例として,動画像の地と図の分 離をギンヅブルグ・ランダウ方程式という一種の反応拡散方程式で実現した.  しかし,標準正則化理論では不連続の処理に不備のあることが指摘されてきており,従 来その対処にラインプロセスなどの確率的な緩和法が採られることが多かった.本研究で は,ノイズで汚れた不連続を含む画像の復元に対し,生物の低次の視覚系での知見を適宜 取り込んだ系を考える.そこで,方位選択性を導入して抑制性の結合と興奮性の結合が互 いに直交している受容野のモデルを考える.ただし,抑制性には競合の,興奮性には拡散 のダイナミクスを用いて不連続のベクトル場を形成し,これにより画像の復元を行う.  ノイズの除去と不連続の検出には,ラプラシアンガウシアンフィルタなどによる一撃ア ルゴリズムが一般的であるが,ダイナミクスを用いることで,隷従原理や分岐による多彩 なパターン形成が可能となり,望ましい認識系の構成が容易になる.これを発展させて自 己組織化の数理を構築することが期待される.
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