氏名: 影山康夫 (d06725)

論文題目: 等間隔標本点を用いた多項式近似の一般理論


論文概要

 まず,区間 [0, 1] を n 等分する標本点上の関数値の一次結合で表される (高々)n 次の多項式は全て,位数 n の Bernstein 多項式の高階導関数の 一次結合で表現されることを示す.そして各 n に対して,そのように表現 したときの「係数」に相当する多項式に,ある適切な条件を仮定する.すると, その条件を満たす多項式の列は,被近似関数の微分可能性に応じた高精度の 一様収束性を持ち,一方,被近似関数にその近似多項式を対応させる作用素の ノルムの列は,有界である.さらに,この2つと同様の性質が,近似多項式の 高階導関数についても成り立つ.以上のことを主張する定理が,本研究の理論面 での主要な成果である.
 この定理を土台として,その中の「ある適切な条件」を満たす近似多項式( それは一意には決まらない)の中で,数学的に最も自然で取り扱いやすい近似 多項式の族を定義する.それは Bernstein 多項式を補正した形をしているので, 「修正 Bernstein 多項式」と名づけ,補正項の個数を「鋭度」と名づける.修正 Bernstein 多項式は,鋭度が 0 のとき通常の Bernstein 多項式となり,鋭度が 無限大のとき Lagrange の補間多項式となる.(すなわち修正 Bernstein 多項式は Bernstein 多項式と Lagrange 多項式の「中間」に位置し,両極端な性質を持つ 両者の「折衷物」である.) 被近似関数が十分滑らかならば,鋭度を上げるほど 収束精度は増すことが定理で保証されているが,一方,作用素のノルムは大きくなり 不安定になる.故に応用上は,収束精度と安定性との折り合いをどこでつけるかが 課題となる.
 修正 Bernstein 多項式を区間 [0, 1] で積分すると,一種の「端補正型の台形則」 となる.(ただし,鋭度が 0 のときは n+1 個の関数値の平均となり,鋭度が 1 の ときに通常の台形則となる.) 端補正型の台形則の重みは,鋭度が 0 や 1 のときは もちろん全て正であるが,一般に,鋭度を大きくすると負の重みが出現する.具体的な 計算の結果,任意の n に対して重みが全て非負となるような最大の鋭度は「8」で あることが分かった.
 Bernstein 多項式はそのままの形では実際の計算に不向きであるが,直交多項式で 展開すると効率よくしかも安定に計算できる.中でも Legendre 多項式が最も相性が 良い.したがって修正 Bernstein 多項式も,Legendre 展開するのが最も実用的である. 展開係数をどう求めるかが問題の核心となるが,実は,それを効率よく計算できる方法 が発見できた.
 「等間隔標本点を用いる高次の多項式近似は実用にならない」という数値解析の常識 を根底からくつがえし,収束精度・安定性・アルゴリズムのどの観点から見ても実用的 な近似法が存在することを示したのが,本研究の総合的な成果である.  
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