氏名: 藤井哲也 (d06727)

論文題目: 仮想空間の構築と高度利用のためのソフトウェアに関する研究


論文概要

 最近のコンピュータ技術,とりわけコンピュータグラフィックス(CG)と計算機ネットワークの発達により,計算機の中に仮想的な空間をつくりだすバーチャル・リアリティ( 仮想現実感,VR )は単なる工学の先端的な分野というだけにとどまらず,広く一般にまで知られ,技術的にも実用化レベルにまで達しようとしている. このVRにより,CGによって描かれた世界に自分が入り込んだような感覚を作り出すことが可能となりつつあり,設計中の都市や建物の中を自由に歩き回ったり,まだ実在しない製品を触ったりするといった,今までにない新しい体験が実現されると期待されている. 一方このVRの実現には,最新の三次元画像生成,情報処理,通信,メカトロニクスなどといった分野の成果が利用されており,今後の具体的な応用に向けて,より一層の活発な研究開発が必要である.
 本論文では仮想空間を構築し,仮想空間を具体的に応用するためのソフトウェア技術に関して述べる. 仮想空間を構築するためのソフトウェアは,その役割で大きく分けた場合,以下の四種類のうちのいずれかに属すると考えられる.
(1) 仮想空間における物体の位置・形状・質感・テクスチャを編集するもの
(2) 仮想空間内の物体の運動・性質を記述するもの
(3) 仮想世界のナビゲーションを行うもの
(4) 仮想環境と人間との相互作用を記述するもの
 まず (1) に関しては,仮想環境内を運動する物体に対して,実時間描画に適した運動モデルを設定し,実際にインタラクションを行うことができるシステムを開発した. このシステムでは,けん玉を題材として,剛体と柔軟な物体とを組み合わせて構成された物体の運動モデルを定義し,そのシミュレーションを行った. 具体的には,二種類の基本的なインタラクション,すなわち,ラケットを使い振り子を打つ「バッティングインタラクション」と,けん玉本体を動かすことにより振り子を操作し本体に付属する皿に乗せる「けん玉インタラクション」を実現した.
 (2) および (3) に関しては,建築業界を中心にVRの技術の応用分野として注目されている景観シミュレーションを例に取り,景観シミュレーションシステム全体を仮想空間の構築と仮想空間の利用という二つの側面からとらえ,景観設計システムと景観体験システムに分けてインプリメンテーションを行った.
 最後に,より効率のよい仮想空間の構築を目指して,計算機ネットワークを利用した協調的な設計手法を景観シミュレーションに応用した. ここでは複数の操作者に対して,設計された部品とその変更履歴を共有させるシステムを用意することにより,景観案の作成にかかる時間の短縮を目指した.
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