本論文では,仮想空間に存在する物体を,仮想手により直接,あるいは道具を 利用して操作するためのモデルについて述べる.本モデルの目的は,仮想物体 の運動を厳密に表現することではない.また,仮想空間に対する操作の正確さ, 迅速さを第一に追求するものでもなく,違和感の少ない操作を対話的に実現す ることである.
まず,色々な形状の物体を片手で持ち,動かすという実際の動作について考察 し,現在の計算機環境で実現可能な手による物体操作のための一モデルを提案 した.また,複数の物体が存在することにより操作対象とならない物体も存在 するため,対話操作を不可能としない範囲で,ある時点で操作対象となってい ない物体の運動を表現するためのモデルについて述べた.これらにより,どの 指のどの部分においても物体の操作が可能となり,さらに手の影響下にない物 体の挙動についても実世界の印象に近づけることができた.
次に,ある物体に片手だけではなく両手で干渉することによる移動について考 察し,「その物体をある位置まで移動したい」という目的を持っていることに 注目して,両手による物体操作のためのモデルを提案した.これは前述の片手 操作モデルを基にしており,両手を用いた物体の移動,右手から左手へ物体を 手渡す操作などが従来よりも少ない違和感で行えた.
また,道具を利用した物体操作について考察し,道具の種類は多様であるが個々 の道具は限られた使用法により,限られた用途に利用されることに注目して, 一般的な道具のデータ構造について提案した.これは特定の道具を対象とした ものではなく,同一のシステムに新たな道具のデータを与えるだけで様々な道 具を利用可能とするものであり,各道具に応じた自身の形状はもちろん,手と 道具との相互作用,最終的に影響を与えたい物体との相互作用を有するもので ある.
これらは,互いに独立なものではなく,仮想環境に存在する物体を片手で,あ るいは両手で操作することが可能であり,さらに多種多様な道具を利用した操 作も可能なものである.また,操作対象でない物体の挙動も考慮されたもので ある.