氏名: 松原 茂樹 (d953404)

論文題目: 自然言語の漸進的解釈とその応用に関する研究


論文概要

 本論文では, 自然言語の漸進的解釈に基づく音声言語処理システムを提案する。 漸進的解釈の導入により, 音声入力に対して即時的なリアクションを可能とする高度実時間言語処理システムの実現が期待できる.
 本論文ではまず, 原言語文の入力に対してほぼ同時進行的に目標言語文を生成することが可能な手法として, 日本語話し言葉の文法的不適格表現を活用する漸進的な英日機械翻訳手法を提案する. 話し言葉は一般に, 書き言葉には見られないさまざまな文法的不適格性が頻繁に出現するものとして特徴付けられるが, 人間はその高度な発話理解能力により, 実際の対話に現れる不適格な発話を容易に理解することができる. そこで,日本語話し言葉の文法的不適格性をむしろ積極的に容認し, 原文の意味内容を表現する日本語文の形態を通常よりも豊富にすれば, 入力された英語文に似た語の生起順序をもつ日本語翻訳文の生成が可能になると考えられる. すなわち,繰り返し,語順の逆転,省略,言い誤り,言い直し, 言い淀みなどを含む日本語文を話し言葉に対する翻訳結果として用い, それを入力と同時進行的に生成することが本研究の基本的な考え方である. したがって本手法は, 高度な解析・変換処理により翻訳結果の品質の高さを追求するものではなく, 原文の意味内容をユーザが正しく理解できさえすればよいという観点のもとで, 実時間での翻訳処理を実現する. 本手法に基づく翻訳システムは,いわゆる同時通訳のように振る舞うため, ユーザの待ち時間が大幅に短縮される効率的な話し言葉翻訳システムの実現が期待できる. 本手法では,途中までの入力に対する漸進的な解析結果を逐次表現するために, チャートに基づく構文解析法を導入する. 実験システムを作成し,バイリンガル対話コーパスを用いた翻訳実験を行った. その結果, 容認可能な翻訳精度をもつ効率的な話し言葉翻訳の実現のために本手法が有効であることを確認した.
 次に,漸進的なマルチモーダル対話システムを提案する. システムは,入力処理プロセス,漸進的解釈プロセス, 出力処理プロセスから構成され,それらが入力に対して同期的に働く. このため,入力と同時進行的に出力を実行することが可能であり, ユーザはシステムの処理結果を随時,確認しながら作業を進めることができる. またこのシステムによれば, システムの反応に関するユーザの待ち時間が短縮されるため, 効率的に対話を進めることができる. システムの有効性を確認するために, 日本語音声とマウスポインティングを入力とするマルチモーダル描画エディタSync/Drawを作成した. Sync/Drawは,語順の逆転や照応表現などの言語現象に対応できるとともに, 図形の移動や削除,コマンドの取り消し, さらには一般のツールでは描画が困難な作図に関するユーザの要求に対して柔軟に応答することができる.
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