氏名: 西永 望 (d963405)

論文題目: 搬送波周波数偏差下におけるM進スペクトル拡散通信方式の高信頼化に関する研究


論文概要

本格的な高度情報化社会を迎え、情報ハイウェイや、無線ネットワーク等の通信イン フラの整備が重要な課題となっており、高速で大容量な通信方式の開発を目指し、様 々な研究が行なわれている。なかでも、スペクトル拡散方式とM進直交変調方式を融 合した直交M進スペクトル拡散通信方式は次世代の通信方式として期待されている。 この方式は、符号語数Mを増加させることにより、1ビットあたりの所要SN比を低減 することができ、加法性白色ガウス通信路において優れた誤り率特性を示すが、搬 送波周波数偏差が伴う通信路においては、直交符号間の直交性が崩れ、受信性能が 著しく劣化する事が指摘されている。搬送波周波数偏差は送受信機間の搬送波周波 数にずれが生じることであり、送受信機間の相対的な移動によるドップラー効果や、 発振器の周波数誤差等がその原因である。この影響は低軌道周回衛星の様な高速で 移動する中継器を介して通信を行なう場合しばしば問題となる。またM進スペクトル 拡散通信方式は多値変調であるため、同期捕捉が困難であることが指摘されている。 これは、M種類ある送信信号のそれぞれに整合したフィルタを構成しなければならな い点に起因している。
本研究の目的は搬送波周波数偏差下におけるM進スペクトル拡散通信方式の高信頼化 にある。信頼性向上の手法として、本研究ではM進拡散符号すなわち、多値変調信号 集合の耐搬送波周波数偏差性の向上と搬送波周波数偏差下での同期捕捉法を提案する。
M進拡散系列を相関検出法における乗算過程後の周波数スペクトル観測という新しい観 点から解析を行なう。解析の結果、搬送波周波数偏差下ではスプリアス成分が送信信 号に整合していないフィルター出力に現れ、シンボル誤り特性が極端に悪化すること を示す。また、このスプリアス成分は逆拡散後の周波数スペクトルのドップラー周波数成分 であり、逆拡散後の周波数スペクトルが均一に拡散される信号集合を用いることによ って、搬送波周波数偏差の影響を低減できることを明かにする。さらに、搬送波周波 数偏差に耐性のある多値変調信号集合の条件を導出する。導出した条件から搬送波 周波数偏差に強いM進拡散符号を提案する。従来用いられてきたWalsh関数系と比較し 、より搬送波周波数偏差に強い事を示す。
白色ガウス雑音下における簡易な装置に よるM進スペクトル拡散通信方式の同期捕捉法を提案する。提案する手法はM進拡散符 号に特別な条件を付与し、それを用いて同期捕捉するものであった。この条件は遅延 検波を用いて検出するすることができるものとしている。 ここで提案する同期捕捉法は従来、送信信号のそれぞれに整合したフィルタが必要で あったのに対し、わずか1つの整合フィルターで同期が可能となり、計算量が大幅に低減できる事を示す。
遅延検波器を改良し、これによって搬送波周波数偏差の影響を回避できることを示し 、この遅延検波器を用いて2値変調された、直接拡散スペクトル拡散通信方式の同期 捕捉法を提案する。高速フーリエ変換器出力を利用していた従来方式に比べ、若干の 同期捕捉性能の悪化と引き替えに、大幅に計算量を低減し、装置化が簡単である事を 示す。
上述の直接拡散スペクトル拡散通信方式の同期捕捉法を更に発展させ、搬送波周波数 偏差下でのM進スペクトル拡散通信方式の同期捕捉法を提案する。提案する方式は、 同じ送信拡散系列を縦列接続した系列を部分的に交錯させ、それに周期が2倍の疑似 雑音系列を掛け合わせ送信するものでる。このM進拡散符号は同時に耐搬送波周 波数偏差性の条件を満たすことを示す。評価の結果、大幅な計算量の低減ができ、 実用上十分な時間で同期が捕捉できる事を示す。
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