氏名: 周 向栄 (489734049)

論文題目: 3次元画像処理手順の自動構成に関する研究


論文概要

人体の3次元CT像などに代表される3次元画像を対象とした画像処理手法の開発は1980 年代前半から始まり,以来様々なアルゴリズムが開発・蓄積されてきた.また,複数 のアルゴリズムを組み合わせて3次元画像内の特定の図形の認識や理解を行う高度な システムの開発も進められてきた.しかし,アルゴリズムの組み合わせ方やアルゴリ ズム内のパラメータの最適化は容易ではなく,実際にはシステムの設計者が経験的に 適当な値に設定することが多い.これは,3次元画像処理は対応する2次元処理に比べ てパラメータ数が多く,それらの値の最適化には非常に多くの時間と労力を要するか らである.また,処理の中間結果はやはり3次元の濃淡画像であることが多く,3次元 画像自身の評価が容易ではないことも原因であると考えられる.

本研究では以上の点をふまえ,複数のアルゴリズムからなる3次元画像処理手順の開 発を支援するシステムを開発した.具体的には,まず,様々な処理アルゴリズムを收 集・整理し,それらを計算機内でデータベース化した.次に,ユーザが示した図形 (サンプル図形と呼ぶ)を3次元画像から抽出するための画像処理手順を自動生成す る方法を開発した.ここでこれらのシステムの開発は,基本的には従来開発された2 次元画像用の画像処理エキスパートシステムIMPRESS(IMage PRocessing Expert System accepting Sample figure presentation)を3次元に拡張することによって行 なった(この新しいシステムを3D-IMRPESSと呼ぶ).本研究ではさらに,開発したシ ステムの有効性を評価するために人工画像や人体の3次元CT像などを用いて手順の自 動構成を行ない,得られた手順の性能を評価した.その結果,3D-IMRPESSによってサ ンプル図形に対応する図形を抽出する画像処理手順を構成できることが確認された. その他本研究では,システム内の手順自動構成処理の高速化,アルゴリズムデータ ベースの構造の改善,および,ユーザインタフェースの開発なども行った.さらに, 多数の入力画像とサンプル図形の組に共通に働く汎化性の高い手順を得るための手順 集約機能も開発し,実際の人体の3次元胸部CT像を用いて有効性を評価した.

ところで,上記の研究では与えられたサンプル図形をできるだけ正確に抽出する手順 を生成することが目的であったが,本研究ではさらに,画像内の特定の図形を検出す る手順を検出の誤り確率に関する要求を考慮しながら自動生成する新しい手法も開発 した.ここで,具体的な誤り率としては,医用画像からの異常陰影の検出問題におい てしばしば評価基準として用いられる異常陰影の検出率と異常陰影に対応しない拾い すぎ候補領域の画像あたりの個数(平均拾いすぎSR数と呼ぶ.SR:Suspicious Region)に注目した.実際にこの手法を開発する際には,まず,画像処理手順が複数 の局所処理(具体的なパラメータは未定)の直列合成であると仮定し,その各局所処 理と処理全体の誤り率の間の確率的な関係を確率モデルを用いて記述した.次に,最 終的な誤り率に関する要求が与えられた時にその確率モデルを用いて各局所処理に対 する要求を推定する方法を考案し,それらを基に手順を逐次的に決定する手法を開発 した.また,この手法に3D-IMRPESSで用いたアルゴリズムデータベースやインタ フェースを付け加え,新しく3D-IMRPESS-Pro(3D-IMRPESS based on Probabilistic Model)と呼ばれるシステムを開発した.本研究では,この新しいシステムを用いて3 次元CT像から肺がん陰影を検出する手順を自動生成させ,性能評価を行った.具体的 には十数枚の画像を用いて誤り率に関する要求を数通りに変化させながら画像処理手 順を自動構成させ,その手順を手順の設計に用いなかった別の十数枚の画像に適用し て性能を評価した.その結果,得られた手順のアルゴリズムやパラメータが要求を満 たすように適当なものに変化する様子が確認され,本システムによって検出率の要求 を考慮した画像処理手順の構成が可能であることが知られた.


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