氏名: 杉本 渉 (m953419)

論文題目: ATMSを用いた自然言語の漸進的曖昧性解消法に関する研究


論文概要

人間の言語理解における漸進性に基づいた,自然言語を入力語単位に解釈する手法を漸進的解釈といい,実時間自然言語処理のための要素技術としてその重要性が認められている.しかし,漸進的解釈の枠組では,入力の各段階で部分的な情報しか得られないため,解消されない曖昧性の数は多くなる.そのため,解消できる曖昧性はできるだけ早い段階で解消し,それでも解消されない曖昧性を保持する,手法が必要となる. 本論文では,語彙機能文法LFG(Lexical Functional Grammar)に意味的制約を付加し,誤った意味構造の生成をできるだけ早い段階で回避する,仮説に基づく真理性維持システムATMS(Assumption-based Truth MaintenanceSystem)により,各段階での複数の解析結果をそれぞれ保持する,という二つのアイデアを用いた,自然言語の漸進的曖昧性解消法を提案し,その有効性について検討した. LFGによる自然言語文の解析では構文木(c-構造)から意味構造(f-構造)が生成されるが,漸進的なLFG解析法では,このf-構造が漸進的に作られる.まず,ある入力語系列に対するc-構造と,新たな入力語のみから生成されるc-構造を用意する.そしてそれぞれのf-構造を生成し,2つのf-構造を統合することにより,新たなf-構造が生成される.また,c-構造の各ノードには様々な意味の構成関係が表現されるため,LFGの文法と辞書に意味的制約を付加することにより,c-構造の各ノードに意味的制約を表現できる.このため誤ったf-構造の生成が避けられ,LFG解析法は漸進的曖昧性解消の枠組となる. ATMSは逐次的に更新される無矛盾なデータの組合わせを複数保持可能な機構であり,この漸進性と多重文脈性は漸進的曖昧性解消に適した特性といえる.ATMSは,解析過程で解消されない複数のf-構造をそれぞれデータとして,また,その各構造を生成するために統合された一語前のf-構造と新たな語彙(仮説)の組をその構造の生成理由(正当化)として受け取る.ATMSは各構造が成立する環境(仮説の組)を常に計算し保持していく.
目次に戻る