実時間対話処理システムを実現するには, 話し言葉をその出現順序に従って順次解釈する枠組, すなわち漸進的解釈手法が不可欠となる. 相手の発話を漸進的に解釈することにより, 発話途中での割り込みの生成や即時的な応答が可能となり, 自然で円滑な対話の実現が期待できる. 漸進的に意味解析や文脈解析を行うためには, 話し言葉に対して, 入力途中の段階で構文構造を作成する枠組が必要である. それを実現する手法として, 漸進的チャート解析手法が提案されている. しかし, この手法には,
本論文ではまず, 1.に対して, 漸進的構文解析における適切な構文構造の決定手法を提案する. 本手法では, 構文構造間の包含関係, 及び構文構造の未決定部分の範疇を活用することにより, 入力途中の段階で随時, 構文構造が適切であるかどうかを判別し, 適切であれば即座に, この構造を出力する. これにより, 漸進性を保持しつつ, 適切な構文構造のみを出力することが可能となる.
次に2.に対して, 文法的不適格文を漸進的に解析する手法を提案する. 本手法では, 漸進的チャート解析により構文構造を作成すると同時に, 到達可能性, 及び連接可能性といった構文的制約を用いて随時, 誤りを絞り込み, 修正する. これにより, 必要な語の脱落, 余分な語の挿入, 別の語への置換といった構文的な誤りを含む文法的不適格文に対して, 語が入力されるごとに, それまでの入力に対する構文構造を作成できる. さらに, 誤り修正に対してコストを導入することにより, 誤りの度合を表現する. これにより, 入力文に最も近い適格文に対する構文構造を解析結果として出力することができる.