1993年にStetterは,多変数連立代数方程式の解法の一つとして, 与えられた方程式を行列の固有値問題に変換し,その固有ベクトル から方程式の根を求めるという方法を提案した.
連立代数方程式 f1=0, … , fm=0 を固有値問題へ変換するためには, {f1, … , fm} が生成するイデアルのグレブナー基底を求めることが必 要である.有理数体上の多項式環において,与えられたイデアルのグレブナー 基底を計算するアルゴリズムが1965年にBuchbergerによって考案され, 以後その改良も数多く提案されている.しかし,計算量やメモリ使用 量が莫大で,予測がつかないという難点が存在する.また,グレブナー 基底を数値計算によって近似的に求めた例はこれまでにいくつか存在 するが,数値的安定性に関して問題がある.
本研究では,多項式に特定の変数を掛ける操作と直交変換の一つであ るギブンス回転を用いて,近似グレブナー基底を数値的に安定に計算 するためのアルゴリズムを提案する.また,前記のアルゴリズムを計 算機上で実現し,Stetterの方法により連立代数方程式の根を求める 実験を行なった.