氏名: 倉内 貴裕 (289734185)

論文題目: 日本語指示詞における推論による照応の解決手法 - 事物が変化する場合の照応解決 -


論文概要


 照応とは,代名詞,指示詞などの代用表現(照応形)とその指し示す対象(先行詞)との組によって表わされる言語現象である.ある照応形に対してその先行詞を同定することを照応の解決という.
 高度な自然言語処理を実現するためには,この照応問題の解決が必要不可欠になってくる.
 照応に関する研究は数多くあるが,それらは主として,先行する文の表層上に言及された事物に対する照応形(文中に先行詞が明示的に存在する照応)を文法的,意味的,談話的な制約を用いることで同定するものであった.
 しかし,このような制約のみを用いる手法では,例えば「食塩を水に溶かす.これに硝酸銀水溶液を加える.」といった,文章中に先行詞が明示的に存在しない,文の意味からの類推によってのみ,その先行詞が得られるような照応(この例の場合,指示詞の指示対象は「食塩水」である)を取り扱うことはできない.一般に,表層構造上に意味的な解釈が適用された結果生じ・派生されたものを指示する照応現象を”推論による照応”と呼ぶ.
 本稿では,この推論による照応のなかでも,先に例示した,照応形が文章中に現れた事物を直接指示するのではなく,文の意味によって表層上の事物が変化を受けた結果生成されたものを指示する場合について,その解決法を提案する.
 提案手法では,事物の変化を動詞に対する規則として定義し,格フレームを利用した文の意味表現を行う際に表層上の事物の変化を推論し,これによって得られた事物の新しい状態を記号的に表現する.そして,この表現も一つの事物として,表層上の事物に加えて先行詞同定の際の候補とすることで,変化後の事物に対する照応を取り扱う.中学・高校の化学の教科書に現れる文例を対象として,提案手法を実現するためのシステムを試作し,このような場合の照応をうまく扱えることを確認した.


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