氏名: 近藤 真樹 (289834155)

論文題目: 3次元胸部X線CT像における腫瘍影の特徴に基づく腫瘍の分類手法の開発とその良悪性鑑別への応用


論文概要

近年,CT撮影装置の発展により臨床の場に大量の画像が利用されるようになった。それに伴い医師の負担が増大している.そこで計算機による診断支援の必要性が高まっている.3次元X線CT像を用いた診断支援システムに求められる重要な機能の一つに,肺腫瘍影の良悪性鑑別がある.悪性腫瘍と良性腫瘍はその治療法の違いにより分類する必要がある.悪性腫瘍の陰影は辺縁が不明瞭・形状が複雑・血管および気管支の巻き込みの存在,などの画像特徴を示す.また充実型腫瘍と含気型腫瘍とでは注目する特徴が違うために、医師が腫瘍影の良悪性診断を行なう際,腫瘍を充実型と含気型に分類することがある.一般的に充実型腫瘍陰影は含気型腫瘍のそれに比べ,CT値の平均値が高く,濃度値分布のばらつきが小さい傾向にある.これまで腫瘍の充実型と含気型に注目した腫瘍影の良悪性鑑別に関する研究はなされていない.そこで腫瘍を充実型と含気型に分類する特徴量について検討し,さらにそれを腫瘍影の良悪性鑑別に応用する.

本研究では充実型腫瘍と含気型腫瘍の濃度値分布の違いから,平均・分散・エントロピーを用いて腫瘤影の充実型と含気型への分類を試みた.その結果61症例に対して分類実験を行った結果,完全に分類することが出来た.このことにより,本研究で用いた特徴量は充実型腫瘍と含気型腫瘍の分類に有効であることを確認した.

次に腫瘍の良悪性鑑別実験では,悪性腫瘍の辺縁の不明瞭さに注目し,濃 度値グラディエントベクトルの大きさの平均値など、計3種類の特徴量を用い て腫瘍辺縁の明瞭性を定量化した.また悪性腫瘍の形状の複雑さに注目し,そ れを腫瘍の体積・表面積による複雑度を用いて定量化した.また,良性腫瘍の 濃度値分布の単峰性に注目し,グラディエントベクトルの集中性を定量化した. それらを用いて腫瘍を充実型と含気型に分類した場合と分類しない場合でのそ れぞれ良悪性鑑別実験を行なった.またその評価には,良性腫瘍を悪性腫瘍と 誤判定する割合,および悪性腫瘍を良性腫瘍と誤判定する割合を描いたROC曲 線のAzの値を用いた.その結果の一例として,充実型の症例に対して腫瘍辺縁 の明瞭性に注目した良悪性鑑別実験行った結果,ROC曲線のAzは0.792であり, 含気型の症例に対してはAzが0.867であった.また,充実型と含気型に分類し なかった場合のAzは0.762であった.このことから腫瘍を充実型と含気型に分 類し良悪性鑑別に応用することの有効性が示された.今後の課題として良悪性 鑑別のための新たな特徴量の検討,多試料での評価,などが挙げられる.


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